実践事例

実践事例
大阪府東大阪市大阪府立たまがわ高等支援学校
就労をめざす生徒たちの
土台となる力を育む
知的障害のある生徒たちが通う、大阪府立たまがわ高等支援学校。
生徒たちの認知機能向上をめざし、2022年度よりコグトレオンラインを導入しました。
具体的な運用方法や、生徒一人ひとりの特性に合わせた効果的なトレーニングを行うための工夫を探るべく、生徒たちがコグトレオンラインに取り組む様子を見せていただきました。

藤井 隆先生

「自立活動」の一環でコグトレオンラインを実施

 たまがわ高等支援学校は、府立支援学校で初めて職業学科を設置した、知的障害のある生徒のための学校です。各教科の学びに加えて、ものづくり科、福祉園芸科、流通サービス科など職業に特化した専門的な学びがあり、それらを深めることができます。仕事の基礎となるマナーや協力することの大切さなどの学びを通して「卒業後の潤いある自立」に向けた力を養うことをめざしています。
 3年間の教育の中で土台の一つとなっているのが「自立活動」です。自立活動とは、特別支援学校などに設けられる指導領域のことで、生徒一人ひとりの困りごとや特性に合わせて課題解決に向けた取り組みが行われています。
 たまがわ高等支援学校では朝の15分と帰りの30分に自立活動の時間を設けており、朝の自立活動の時間に週2回、全学年・全クラスでコグトレオンラインを実施しています。

先生の声掛けは最小限 各自のペースで取り組む

生徒の端末をのぞきながら教室を回る先生。集中して取り組む生徒たちに声を掛けることはせず、静かに見守ります。

 訪れたのは、1年生の朝の時間。挨拶を終えると、一人の生徒が教壇に上がって司会進行役となり、その日の時間割の確認やクラスメイトの健康状態をチェックします。その後、担任の先生から連絡事項が共有され、自立活動の時間は残り約10分。ここからコグトレオンラインの時間が始まります。
 生徒たちが端末を取り出し、トレーニングを開始。取り組み始めると、教室は一気に静かになります。担任の先生は、最初に「苦手な問題もやってね」と声を掛けた後は、教室内を歩きながら生徒たちを見守ります。

生徒の端末をのぞきながら教室を回る先生。集中して取り組む生徒たちに声を掛けることはせず、静かに見守ります。


 たまがわ高等支援学校では「今週のコグトレ」を活用し、週2回それぞれ2つのトレーニングが配信されるよう設定しています。「今週のコグトレ」を活用することで、6分野から、偏りなくさまざまなトレーニングに取り組むことができるといいます。配信されている「今週のコグトレ」に取り組み終わった生徒から、自分の好きなトレーニングに取り組んでよいルールになっているそうです。
 コグトレの導入に中心になって関わった藤井隆先生は、「導入当初は生徒が自由に取り組めるようにしていましたが、得意な問題や簡単な問題ばかりを選びがちなので、どの分野もまんべんなく取り組めるよう、配信機能である『今週のコグトレ』を使うようにしています」と話します。

帰りの自立活動の時間も、やることを終えた生徒はコグトレオンラインをやってよいことになっているそうです。

 この日、配信されていたトレーニングの一つが「形さがし」。不規則に並んだたくさんの点の中から指定された形(点の並び)を探し、「見る力」や「形の特徴を捉える力」を培うトレーニングです。このトレーニングを苦手とする生徒は多いそうですが、諦めずに取り組んでいる姿が見られました。チャイムが鳴ると、「今やっているトレーニングが終わったら、次の授業の準備をしましょう」と担任の先生が声掛け。すぐに切り上げて授業の準備に取り掛かる生徒がいる一方で、切りのよいところまでトレーニングを続ける生徒もいて、それぞれのペースで取り組む姿が印象的でした。

帰りの自立活動の時間も、やることを終えた生徒はコグトレオンラインをやってよいことになっているそうです。

書籍教材からオンラインに切り替え、先生の業務負担も削減

 たまがわ高等支援学校では2017年度から書籍教材のコグトレを導入しました。コグトレを取り入れたのは、自立活動の取り組みとして適していると考えたからだといいます。知的障害があるたまがわ高等支援学校の生徒たちの中には、一つの課題に集中して取り組むことが難しかったり、黒板に書かれた文字や図をノートに正確に書き写すことが苦手だったりする生徒が少なからずいるそうです。藤井先生は「こうした課題に対して効果的にアプローチする方法がなかなか見つからず、自立活動の時間に何に取り組むべきかを悩んでいました」と話します。それまでは1分間スピーチやメモを取る練習、目と手の協応動作のトレーニングなどを中心に行っていましたが、アプローチ方法を模索する中で見つけたのが、認知機能を強化するコグトレでした。「最終的に就労をめざす本校の生徒たちにとって、『見る力』『聞く力』といった認知機能を伸ばすトレーニングはとても役立つものだと考え、導入してみることにしました」と藤井先生は話します。
 そして導入して約5年、2022年度に書籍教材からオンラインのコグトレに切り替えました。切り替えた背景には、「印刷の手間」という課題があったそうです。
 「最初は私をはじめとする担当の教員で、全校生徒分のプリントを1週間で400枚ほど印刷していました」と藤井先生。その後、各クラスの担任が印刷することになって負担は分散されたものの、やはり負担に感じていた先生もいたそう。こうした状況の中、先生の一人がコグトレオンラインの存在をインターネットで知り、試験的に数クラスだけ導入してみることに。
 1年間試験的に導入した結果、書籍教材を使った場合とコグトレオンラインを使った場合で、力の伸び率に差が出ないことが確認できたため、次年度から全学年でコグトレオンラインに切り替えました。また、一人一台端末環境が整備された時期と重なったことも、導入の後押しとなったそうです。
※ 生徒たちの伸び率の確認には、たまがわ高等支援学校独自の「アセスメントコグトレ」を利用したそうです。

生徒たちの自尊感情を傷つけず、楽しんで続けられるようサポート

コグトレオンラインに限らず「苦手に挑戦することは本校が大切にしていることの一つです」と藤井先生。

 コグトレオンラインを実施するにあたり、先生たちが特に意識しているのは「生徒の自尊感情を傷つけない」ことだそう。例えば全問不正解が続いてしまうと、生徒の自信ややる気がそがれてしまいます。そのため先生たちは「コグトレオンラインmanager」を用いて、生徒の正答率や取り組み回数をチェックしつつ、生徒と年3回の面談を実施。そこでトレーニングの難易度について相談し、先生側で「今週のコグトレ」で配信されるトレーニングの難易度を調整しているそうです。また、トレーニングに取り組むペースも生徒によってさまざま。藤井先生は「一問一問、時間をかけて取り組む生徒もいるので、回数が少ないからといって『もっとやりなさい』と声を掛けることはしません。適切な難易度で、自分のペースで取り組みを続けてもらいたいと考えています」と話します。

コグトレオンラインに限らず「苦手に挑戦することは本校が大切にしていることの一つです」と藤井先生。

自由度も保障しながら、苦手に挑戦できる仕組み作りを

コグトレオンラインに取り組む曜日は各クラスの担任に任せており、無理なく続けることを重視しているそうです。

 コグトレオンラインを導入して3年。特に1年生から2年生の伸びが大きいといいます。「本校では1年生から職業体験実習に取り組んでいます。そこで多くの生徒たちが特に困った様子もなく、実習に取り組めていることから、しっかり話を聞いたりメモを取ったりできているのだと思います。こうしたところにコグトレオンラインの効果が表れていると感じます」と藤井先生。特に始めたばかりの1 年生の生徒たちからは「楽しい」と好評です。

コグトレオンラインに取り組む曜日は各クラスの担任に任せており、無理なく続けることを重視しているそうです。

 たまがわ高等支援学校のように、生徒たちが楽しく続けながらも効果的に取り組んでいくにはどのような工夫が必要なのでしょうか。藤井先生は「生徒任せにしすぎるとトレーニングの内容が偏ってしまい、期待する効果が得られません。一方で、『これをやりなさい』と縛りすぎてしまうと生徒のやる気もそがれてしまいます。そのため、苦手なトレーニングに取り組んでもらいつつ、自由度も保障しながら実施できる仕組みを作ることが大切だと思います」と話します。
 また、たまがわ高等支援学校では、コグトレオンラインに取り組み始めた時期には生徒が好きなトレーニングを選んで取り組めるようにしており、だからこそ抵抗感なく始められたのではないかと考えているそう。「まずはコグトレオンラインに親しんでもらうことを重視し、慣れてきたら苦手なトレーニングにも取り組んでもらうようにするとよいかもしれません」と藤井先生は話しました。
 一人ひとりが自分の特性に向き合い、自身のペースでコグトレオンラインに取り組むたまがわ高等支援学校の生徒たち。培われた力は、就労に向けた彼らの土台にきっとなってくれるはずです。

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